俳優の緒方拳さんがテレビドラマ「風のガーデン」を最後に逝ってしまいました。

重い肝臓ガンだった伝えられています。
「風のガーデン」は、10月から12月まで10回連続のドラマで、第一回目が、10月9日午後10時よりフジテレビで放映されました。

20%を越える高視聴率ドラマになりました。緒方さんは半年以上かけた撮影を終え、先月末の記者会見やプロモーションの席ではしっかりと存在感を示していました。

そして10月5日、まるで大木が朽ちて突然倒れるように亡くなりました。
この様子をテレビで見ていて、ひとつの美しい出来事を思い出しました。

龍村仁監督の映画ガイアシンフォニー「地球交響曲」のパート1の中にトマトの話が出てきます。植物学者でハイポニカ(水気耕栽培法)の開発者の野澤重雄氏は、一粒のトマトの種から、13,000個ものトマトの実をつける巨木を作ることが出来る人です。一般の畑では、せいぜい60個もトマトの実がつけばよい方だそうで、これはとんでもない事実ということです。

野澤氏は種そして苗の段階で十分にいい栄養と環境を整えて、

安心してどこまでも大きくなっていいのだよ

という安心のメーッセージを伝えると、その植物は、とてつもない能力を発揮するのだそうです。

映画の撮影隊は、みるみると大きく成長してゆくトマトの木を丹念に撮影記録をしてゆきました。半年もすると幹の太さは10cm、枝の広がりは優に10mを越えるようになりました。トマトの赤みが増してくる頃、撮影隊は、別の重要なシーンを撮影するためにイタリアに飛びました。出発する時、龍村監督は野澤さんに尋ねました。

真赤に熟した5,000個のトマトをラストシーンで使いたい。トマトが熟しきって、落ちる前に帰りたいが、いつまでに帰ればよいか?

ということでした。
ところが野澤さんの答えは帰国の予定より10日も前でした。抜き差しならぬスケジュールで、スタッフ一同、一日でも長くトマトが落ちずにいることを祈りながら出発しました。

イタリアでの撮影を済ませ、撮影隊は帰国してその足で、トマトの撮影に入りました。トマトは見事な姿を保っていました。もうとっくに落ち切ってしまってもおかしくない時期でした。

撮影を無事終わらせ帰宅していた翌日、龍村監督のところに、野澤さんから電話がありました。

真夜中に温室から変な音がするので行ってみると、あの5,000個のトマトが、間断なくボタボタと落ち続ける音だったのです。一晩でほとんどの実が落ちることなど初めての経験です。

野澤さんは続けて

トマトはあなた方の帰りを必死で待っていたのです。そして自分の使命がようやく終わったと思ったとたん、ハーッと息を抜いて一気に全部落ちたんでしょう。今回は撮影のために生きたんですから。

と言いました。

トマトに願いが通じたのです。命の大元は一つです。命あるものは植物であろうと人であろうと通じるということでしょう。
限りある命の限界を超えて、使命のためにぎりぎりまで耐え、そしてポッキリと命を終えた緒方さんを思うとき、このトマトの話が浮かびました。
一人の名優を失う悲しい話ですが、どこか潔いすがすがしささえ感じる見事な結末でした。

日本オーガニックコットン流通機構
理事長 宮嵜 道男