フレデリック・バックのアニメーション映画「木を植えた男」が話題になっています。

色鉛筆のタッチがそのままで、アニメーションの動きも子供の頃ノートの端に連続の絵を描いてパラパラとやり、絵を動かして遊んだ、まさにそんな素朴な作品です。この作品は、1987年、第60回アカデミー賞のアニメ部門で受賞しています。
世界のアニメ作家たちに決定的な影響を与えた金字塔的作品で、今回の日本でのイベントではスタジオ・ジブリが応援しています。

フレデリック・バックは、フランスで生まれ、カナダに渡って才能を開花させたアニメ作家です。この作品では5年の歳月をかけ、2万枚の原画を描きました。過労から片方の目は見えなくなったそうです。バックの作品はアニメの他に何千点もあり、生涯で何万点もの絵を描く稀有な作家です。マラソンで何キロも走り続けることのできる人、何桁もの暗算を一瞬で解いてしまう達人と同じように、きっと、バックは気持ちを文字に書くようにサラサラッと絵にできる特殊能力を持った人でした。

「木を植えた男」の物語は、南フランスの樹木のない山に独り住む老いた羊飼いが主人公です。羊飼いは、どんぐりの種を黙々と植えて、何十年後に森が出来たという話です。
森のない荒れた土地に住む村の人々は、妬み、辛み、盗み合いすさんだ生活をしていました。ところが羊飼いがもたらした豊かな森は、村人達を変えました。人々は心穏やかになり、平和な暮らしを楽しむようになりました。

樹木が豊かな自然の環境は、人々の心に安らぎをもたらすものなのだと教えています。
人が人として生きるには森は欠かせない存在で、経済的事情で森を伐採する事の愚かさを気付かせてくれています。
木を植えて森を作った老人は、人間として最も穏やかで平和な気持ちで生涯を終えたとこのストーリーで結んでいます。誰のためでもない、大自然(神様)の意志に従い、わずかな尊い行いをひたすら続ける事によって、とてつもなく有益な大きな結果をもたらすことがあることを示唆しています。

老いた羊飼いは、毎晩夕食の後に、どんぐりの種を一つ一つ傷がないか点検して、大切に袋に収め、山に行くたびにその種を植えていきました。どんぐりの種はナラの森に育ちました。
この映画を観て、初めて「どんぐり」の事を考えました。
どんぐりは子供の頃から独楽を作ったり、ヤジロベーを組み立てたりと可愛いらしいおもちゃとして親しんできました。但しこれを植えれば木になるとは考えた事がなかったので、映画のこのシーンに軽い衝撃がありました。
その衝撃とは、どんぐりに対してなんという無関心、無知を恥じ入るものでした。
どんぐりとは単に「丸っこい硬い実」を表わす言葉で、特定の木の種を指しているわけではありません。コナラ、クリ、ブナ、マテバシイ、カシワ、ミズナラ、ウバメガシ他、日本では20種類の常緑カシ類、落葉ナラ類の種の総称だったのです。広葉樹は、葉が落ちて重なり、微生物が豊かな土壌に変えていきます。たっぷりと雨を吸って、清らかな湧き水になります。大自然の営みのなんと理に適っていることか、感心します。

このアニメーション映画は、オーガニックの真髄を示していると思いました。

日本オーガニックコットン流通機構
理事長 宮嵜 道男