コラム 「未来へのコスト」2020 NO.14

未来へのコスト

16世紀コペルニクスが地動説を唱えるまで、人々は平板な大地に太陽が昇り、沈むと信じて疑いませんでした。
太陽が西に沈んだのなら、同じ西から昇らなくてはならない筈です。
ところが太陽は反対側の東から登ります。そこで、これは西に沈んだのは消滅した訳で、東から昇るのは太陽が新たに生まれているに違いないと帰結しました。
1981年公開のアメリカ映画「黄昏」では老境のヘンリー・フォンダ扮する男の人生の終わりを象徴するように夕陽のオレンジ色が印象的に描かれました。
西に沈む太陽は死であり、そこから彼岸のイメージが地動説を信じる現代人にまで固着しています。

拓殖大学の竹内正哲教授の著書「日本を救う未来の農業」を読んで、日本人に固着した間違いに気付きました。

スーパーマーケットの野菜売り場に行くと外国産のものが多くなったと感じています。ひたすらグローバル化の掛け声の下、TPP(環太平洋パートナーシップ:2018年)やEPA(経済連携協定:2019年)が締結されて、40%増しの勢いで海外産の農産物が輸入されています。
どれも新鮮そうで価格は国産の3〜4割安です。ヨーロッパやチリ産のワインなどもびっくりするような国産の半値以下の安値で売られ、恐る恐る栓を開けて飲んでみると普通に美味しい訳です。これじゃあ、日本の農業が大変な苦境に陥るだろうということが容易に想像できます。

一般の日本の農業への認識は、農家の高齢化、次の担い手の不足、耕作放棄地の拡大と衰退の一途を辿り、食糧自給率が低下して、国の安全保障上危険な水域に達しているというものです。

スーパーマーケットで、中国産のニンニクに対して10倍も高い国産のニンニクを買った時、流石に納得できず、なんと言っても安全な国産だからと強く自分に言い聞かせたものです。
日本の野菜は、この瑞穂の国の豊かな自然の中で良心的な農家さんの元で丹精込めて作ってくれたものだから高くても仕方ないと目を瞑って来ました。
ところが、この本には驚天動地のことが至極冷静で事実に基づいて綴られています。

まずこの表を見てみましょう。
単位面積当たりの農薬使用量の国際比較です。
日本がとんでもなく多いことにがっかりしました。
農薬問題と言えば、アメリカでしょう、中国でしょうと思い込んで来ました。

FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、確かに中国の農薬使用量は農地1haあたり13kgという世界最大級の数値ですが、実は日本も11.4kgの農薬を使っていたのです。
ところがアメリカは、あに図らんやずっと少なく、日本の5分の1しか使っていません。ヨーロッパ諸国に至ってはどこも少なく、イギリスは日本の4分の1、ドイツ3分の1、フランス3分の1、スペイン3分の1、オランダ5分の4、デンマーク10分の1、スウェーデン20分の1となっていたのです。
EUは政策により意図的に農薬を減らしています。南米ブラジルは日本の3分の1であり、インドは日本の30分の1という少なさで目を疑いました。

残念ですが、今まで信じていた日本の農産物は「高いけど安全」というのが盲信で神話だった「天動説」だったということでしょうか。
農水省などの言い訳を読んでみると、日本は高温多湿で、菌類も害虫も多様であり、虫が取り付きやすい果樹類が多く小規模農地集約型であることに対してアメリカなどの麦などの穀物類は広大な農地で栽培され、それほど農薬を必要としないので単位面積当たりで比較すると少なくなるというあくまでも統計上の見え方の問題だとしています。
本当にそうでしょうか?
他の国々のそれぞれの気候や農地の事情と比べても断トツに多い日本の農業の農薬量は隠せる域を超えています。

これまで、日本政府は高い関税障壁を設けて、外国産の農産物が輸入されるのを抑制して国内の農業を保護する政策を採ってきました。国会議員の選挙の農業関連票の圧力もあった事でしょう。
一方農業技術の面でみると鎖国状態で、厳しい競争関係で勝ち残って来た外国産農産物と同じ土俵に乗せてみたら割高で、農薬使用面での安全性も遥かに劣ることがはっきりしてしまったということです。2010年から2014年まで農薬会社の住友化学の会長が経団連の会長を務めました。政官財のトライアングルの圧力が想像できます。
驚くべきことには、ミツバチの生態系を壊すと世界中が使用を禁止しているネオニコチノイド系の農薬を日本では国産農薬という事で使用を続けてます。事実を重くみるべき政策判断が、ある種の圧力で歪められているのが問題です。

以上のような事実の前に、我々消費者はどうゆう選択をすべきなのか?
農薬を使わない日本のオーガニック農産物を高いの承知で目を瞑ってでも買う事です。

300円の野菜がオーガニックだと500円しているとして、その差200円は日本の将来の子子孫孫の時代の農業が健全になるためのサステナブル・コストです。

「200円損した」と心のどこかで思うでしょうが、現代の生活コストの中で食費は、それ程比率は高くありません。
インターネットなどの通信費の高さや飲み代と比べたら、僅かです。それに命に直結している食べ物です。

オーガニック野菜を皆んなで買えば、農家は化学農薬を止めて、オーガニック農業に転換しますから、 必ず日本も遅ればせながらオーガニック大国になります。
安全で滋養が高く、有機農業で頑張っている農家さんを支援して、自然環境を守り、未来の世代の人々に最高の食べ物を食べてもらうことになります。
これでも差額の200円は高いですか?

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文責:日本オーガニックコットン流通機構

宮嵜道男 4.23.2020