コラム 2019 No.14 「菱川メソッド その1」

菱川ファッション予測メソッド

 

㈱シオンテックの菱川さんは植物への造詣が深く、ボタニカルダイ(植物染色)の分野を極められました。そしてファッション業界にあって来年、再来年の春夏、秋冬の企画に追い立てられているお得意様のために、なにか根拠のある予測の方法はないかと長年研究され一つのメソッドとして完成されました。このメソッドに沿って、定期的に予測レポートを提供されています。

この度、NOCのメンバーの皆さんに提供するお許しを得て、このファッション予測のメソッドの概略をお知らせします。順次、予測レポートも配信してゆく予定です。長文になりますので2回に分けます。

 

その1

私たちが生きている現実

地球には大気があります。この大気が宇宙に散り散りに霧散しないのは、大気圧と云う途轍もない力が働いているからです。地球の大気圧・1気圧は1,013 hPa(ヘクトパスカル)で、1㎡(平方メートル)当たりなんと約10トンもの圧力が掛かっている計算になります。人間はその中で生まれ、生きてきているのでこれが当たり前で、何も圧迫を感じることはありません。魚が水圧を感じないのと同じです。釣り上げられて初めて水の中にいることを知ります。
一般的に低気圧になると体調がおかしくなるとか関節が痛むなどということを聞きます。気圧の変化は単に身体に影響するだけでなく人の深層の心理にも影響します。低気圧で雨がちだと圧力が緩むので怠く感じ、晴れた高気圧だと引き締まり活力を感じます。
大型台風の時の低気圧は940 hPa(ヘクトパスカル)にもなり気圧の低い所に大気を巻き込み、巨大なエネルギーの渦となって暴れ、途轍もない大気圧の「本性」を表します。

日々の自然の変化は人の心身に深く影響しています。地球は1日24時間で1回転します。(自転)その速度は時速1,674,4㎞です。(赤道上)日本の緯度辺りでは時速1,350㎞になります。音速が時速1,225㎞ですからなんと音速以上の速さです。
地球は太陽の周りを1年掛けて1周します。(公転)この時の時速は10万7280㎞です。更に太陽系が銀河の中心を公転する速度は時速86万4000㎞です。これらの動きは正に爆発的で150億年前のビッグバンの真っ只中に「今」があるということでしょうか。途方もない数字が並びました。

ダイナミックな地球、天体の運行の循環は「運命」との関連を思わせ、西欧では占星術、古代中国では気学として確立しました。地球と星や月の位置関係は、ヒトの身体や深層の意識(心、魂)に作用して感情や思考を生み出し、時には国家間の紛争を起こしてきました。

古代ローマの歴史学者クルティウス・ルフスは「歴史は繰り返される」という箴言を残しました。

 

人は常に未来へ強い関心を持ってきました。過去の地球の変化と人の運命の関連から未来を予測するメソッドは世界中にあります。古代より「占い」は政治や社会的な行事、都市計画まで重要な意思決定の中心に据えられてきました。干支では、三の酉がある年は火事が多いとか、辰年と巳年は景気が良くなり株が上がるなどと云われてきました。未来予測は、過去から現今までの事象の循環を基に行われます。この循環を単なる偶然とか迷信と片付けないで、謙虚に人知を超えた深遠な流れとして意識を向けることは、人間をより深く知ることに繋がります。現代はすべからく科学的でないものは信じない、特にビジネスの世界では「占い」で判断しないという暗黙の了解があります。

それでもビジネスの先を読みたい欲求は常にあり、スーパーコンピュータを使ってビッグデータから出た結果を金科玉条の如く重視します。しかし、入力された人間の活動の結果の数字が弾き出した答えは、地球・宇宙サイズのスケールでの流れを加味していなければそれなりの答えにしかならないでしょう。

 

サーキュレート・モチュベーション

 

㈱シオンテックの菱川恵介氏は1967年に「サーキュレート・モチベーション」としてファッション予測のメソッドを確立させました。

それは天体の循環の動きに合わせて変化して行く人々の感覚、季節の色の変化が人の色感覚に刷り込まれ、好みの色を決めている循環、そして人の感覚の習癖などの色々な要素から、その年その年の売れ筋を推理し流行の兆しを捉えるアルゴリズムです。

人間の本能、社会の動きには一定の「周期、循環」が存在するということから、過去の流行色と社会現象を時系列に並べて俯瞰して見てみると、流行の色も、スタイルも、柄も一定の「循環」があることを掴みました。この循環を未来に延長してゆき予測として発表できるようになりました。

但し、人間の感覚は単純なものではなく、ファッションは年毎に同じように推移して行くことはなく好景気、不景気、災害など社会現象に影響されて変化しています。それが顕著だったのは、2011年の東日本大震災後のデパートの洋服売り場の服の色が一転して地味な紺やグレーに変わったのを見て、ファッションの世界が如何に事象に影響されるのか目の当たりにしました。その時々の人々の気分、社会の気分という要素を加味して未来予測することの重大さが判りました。世界の流行色は、14か国で組織されたインターカラー・国際流行色委員会で2年後に流行る「色」を発表します。

日本でもこれを取り入れ、最終的に日本流行色協会(JAFCA)が、生活者の志向やマーケット動向調査、海外の傾向などを総合的に判断してその年の流行色としてマスコミを通じて広報してゆきます。「今年流行る色はこの色です」と路線を引いてゆきます。予測された流行色の根拠は時代のイメージを予想するという希薄なもので、流行るというより流行らせるという便宜的なマーケティング手法と云えます。流行色の発表が2年先というのも春夏、秋冬の服飾業界のタイムスケジュールに合わせるためのものです。これに対して、菱川メソッドの予測には根拠があります。菱川氏はこれを「必然」と呼んでいます。以下根拠を示してゆきます。

 

眼の習癖

人が目で色を認識する時の機序に注目し、それを1つの習癖「くせ」として捉え、その「くせ」に沿って人は色を認識していることに注目しました。人は色を感じるとき、まず白黒のモノトーンと色相を見分けます。次に反対色の赤と緑そして黄色と青色の二系統に分けます。そしてそれらを、渦を巻くように波長の短い光と長い光を交互に捉えながらその物の色を認識しています。この色を感じる視覚上の成り行きに沿って、この通り好む色(流行色)も変化して行くことを突き止めました。

 

流行色の循環

夜明けの色は黄色です。太陽が真上に来ると植物の緑色が輝きます。やがて夕焼けになり赤に染まり,太陽が沈むと青みが広がります。この色の循環を人類は何百万年と目に沁み込ませてきました。
また人類は植物の生長過程で表れる色の変化についても注目して生きてきました。「食べ頃」を知るという生存の掛かった知覚でした。はじめ、白い芽が出て、太陽光線を浴びて黄色みを帯びる。そしてクロロフィルを備えると緑になり、やがてカロチノイドが生成されて紅葉する。そしてタンニンになり茶色になり朽ちてゆきます。一日の風景の色の変化と植物の色変化のイメージから、黄色から緑、赤、青、そして黄色に循環することに着目しました。

流行色としてみる時は、眼の習癖でモノトーンと色相が相関しますので、循環する色の間にモノトーンが挟み込まれることがあります。色と色の間の休符的な位置づけです。確かに色に溢れた空間にしばらくいて、モノトーンの空間に移るとホッとするということは誰でも経験することでしょう。デザイナーが、青系統の色ばかり検討していると、青に伝達する神経を使い過ぎて疲れ、反対色の黄色を見たくなったりします。青から黄色への自然な循環です。ファッションの世界もまさにこの気分が働きます。カラフルだった年の翌年は、モノトーンやパステルトーンが流行ります。一つの流行色の人気が長く続くとその後モノトーンが流行する傾向があります。

日本では黄色は、長く流行する傾向がみられます。色の循環で面白いのは、紫色で9年に一回、緑色の後に現れ、赤に変遷して行きます。

                                                                                          日本オーガニックコットン流通機構
顧問 宮嵜道男
9.5.2018