コラム 2019 No.2「スイス人の知恵・どこから?」
スイス人の知恵・どこから?
NOCのオーガニックコットンのバックグランドは
インド、タンザニアで行われているbioReプロジェクトで、このプロジェクトを作り支えてきたのはスイスのREMEI社です。
NOCの会員企業㈱パノコトレーディングの御法隆德氏(NOC前理事長)は、オーガニックコットンの原料輸入にあたって、世界中の産地を訪ね歩きました。
品質はもちろんの事、その産地の取り組み方が正当なものかどうかを実際に見てくることは、最も重要なことと考えてのことでした。認証があるからと云っても実際に畑で働く人々の様子や農場主の人格を見ないと、不適切な原料を掴まされることがあり、自信をもって認証オーガニックコットンであると云えるためには労を惜しむことは出来ませんでした。
1998年に、bioReプロジェクトの存在を知って一路スイスのREMEI社を訪ねました。社長はパトリック・ホフマン氏で、ほとんどこの人の誠実さからこのビジネスが成り立っていることに御法氏は深い感銘を受けました。その後、その誠実さが実際のビジネスの随所に現れるのを目の当たりにしました。
その中の一つですが、オーガニックコットンは、農場単位で認証を取ります。そして収穫された綿はその地域ごとにジニング工場で原綿にされ、そのまま紡績工場に投入されて認証オーガニックコットン糸となります。ある時、REMEI社から「これから出荷する糸は一部、同一地域の畑以外のオーガニックコットンが投入されています。申し訳ありません」という通知がありました。
こちらとしては、認証の確かなオーガニックコットンであれば何の問題もありませんが、REMEI社は正直に内容の開示をしてきた訳です。REMEI社との信頼関係は、その後も深くなってゆき現在に至っています。
スイス人は、このように一定のルールを決めると誠実に守ろうとします。これが信頼を醸成し、民族の力を蓄えてきたように見えます。
どこからこの知恵を獲得したのか見てゆきます。スイスは、だいたい九州ほどの面積でその3分の2はアルプスをはじめとする山々の国です。
人口はわずか780万人の小国です。その小国は、国民皆兵、永世中立国で、国連をはじめとして多くの国際的な組織の本部機能を果しています。
よく目にするのは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、WTO(世界貿易機関)、IOC(国際オリンピック委員会)、FIFA(国際サッカー連盟)でバレーボールもアイスホッケーもスポーツ関係の本拠地になっています。永世中立国ということでテロや紛争がなく公正性が保てることから、このように国際組織の本部機能が集まるのです。元々、国際人道主義の発祥の地であり、信頼感が出来上がっています。
スイス銀行は、善きも悪しきも依頼主との契約を厳に守ることで有名です。アメリカのギャング達の信頼も篤く、アルカポネの一味はスイス銀行を使ってマネーロンダリングしていたようです。
有名人では、建築家のル・コルビジェ、哲学者ではユングやルソー、精神分析のロールシャッハ、彫刻家のジャコメッティ、赤十字を始めたアンリ・ジュナン、37歳を越えてもなおテニス界の王者に君臨するフェデラーがいます。世界最高峰のヨットレースのアメリカズカップ2003年31回大会では優勝しました。
山の中の国がこのレースに勝ったことは奇跡でした。体力、知力、資金力、組織力が並外れていないととても勝てるようなレースではありません。
芸術分野でも、ルツェルン音楽祭、モントルー・ジャズフェスティバル、ロカルノ国際映画祭、ローザンヌ国際バレエ・コンクールは有名です。
スイスは領主たちが誓約同盟を結成した1291年を建国としています。13世紀、ヨーロッパ全土を支配した神聖ローマ帝国・ハプスブルグの勢力下にありましたが、14世にはその圧力を跳ね除けています。
ヨーロッパ各地で起こる戦争には傭兵という形で参戦し、なんとスイス国の財政を支えたといいます。強靭な体格と屈強な精神は3世紀にわたり鍛錬されました。
なんと1927年まで傭兵は存在していました。アルプスの少女ハイジのお爺さんは、元傭兵だったというストーリーです。現在、ローマのバチカン市国のカトリック総本山の警備を任せられているのは、古くからしっかりと役目を果たしてきたスイス人です。ここでもスイス人への篤い信頼を窺わせます。あの独特なユニフォームはミケランジェロがデザインしました。
1891年に定められた憲法で独特な直接民主制が敷かれました。一般的には、民主主義の各国とも代議制で、法律を作る人を選び、法案は政党間の力関係で決まり、その法律で社会を律します。
ところがスイスでは何事も国民投票で決めます。投票で決まったことは、自分たちの生活にリアルに関係してくるので、結果として国民の「権利と義務」の意識が高くなります。
国民皆兵で若者は徴兵に行きますが、これも納得づくな訳です。中立を他国に示すためには、強い軍事力を背景に持たなければならないことを呑み込んでいると云えるのでしょう。
男子は20歳から35歳までに8ケ月間の軍事訓練を行い、その後も随時、短期間の訓練を行います。
ひとたび軍事的な侵略が起こると、6時間以内に30~40万人が兵士として動員できるような態勢を常に整えています。
男の子を持つ母親の気持ちはいかばかりかと思いますが、2013年に国民投票で、徴兵制を維持すべきかどうかの審判の結果は73%以上の国民が維持すべきとしました。
ドイツ、フランス、イタリア、オーストリア、リヒテンシュタインの国々に囲まれた特殊事情が、ここまで強い精神を作り上げたといえるかもしれません。
スイスを攻めれば反撃が厳しく難しい、文化、芸術、スポーツの中心地でここを攻めれば、国際世論のそしりをうけて世界史の恥じとなる等々、他国が攻めにくい条件を周到に積み上げてきて今日の平和を維持しているのです。
スイスのやり方を一言で表すと、「信頼を勝ち取る」ことと云えます。
信頼されることが力になることであり、オーガニックコットンの仕事においても大いに参考にしていかなければならないと思います。
日本オーガニックコットン流通機構
顧問 宮嵜道男(文責)
5.17.2018