肌触りはペクチン

オーガニックコットンの仕事を始めて早いもので、20年以上経ちますが、その間、
肌着やパジャマなど肌に触るものは、すべてオーガニックコットン製を使ってきました。

スキムミルクのような優しい生成り色が当たり前になってしまうと、お店で色柄がどれほど
格好よく見えても、買って身に着ける気がしません。
なぜなのか?改めて考えてみました。

タンスの中には、Tシャツやワイシャツ、ズボンなどオーガニックコットン以外の物もそれなりに収まっています。
当然、着古したら、新しい物に買い替えてきましたが、不思議なことに、オーガニックコットンの物は、ヨレヨレになっても、捨てられないのです。
20年以上タンスの中に居続けています。
休みの日など一日のんびり過ごすと決めた日は、ヨレヨレのオーガニックコットンのシャツ、パンツで過ごします。
究極のリラクゼーションを味わえます。色は要りません、アイロンも要りません、どこか自分の臭いが香る心地よさです。

10年以上も前の事でした。視覚障害のある方とデザイナーさんが事務所を訪ねて来られました。
視覚障害者のために服を作りたいという目的で、オーガニックコットンの生地を試しに
来られたのです。
お二人はそれぞれ、無言でハンガーの生地を手で撫でて感触を味わっていました。
デザイナーさんも目を瞑って生地を触っていました。
話しかけるのが憚れるくらい真剣さが伝わりました。
しばらくして、デザイナーさんが、「全然違いますね」と云うと、視覚障害の方も大きく
頷きました。
視覚に障害があると触覚が鋭敏になるので、肌触りはとても大事だそうです。
一般の綿製品を色々試してきて、もちろん柔らかい肌触りの生地もありますが、
柔らかさの「質」が違うとはっきり云われました。
「どうしてでしょうか?」と聞かれて答えに窮しました。
オーガニックコットンですからと鼻高々に言いたいところですが、お二人のあまりの真剣な様子にとても言えませんでした。控えめに「染色とかの化学的な加工をしていないからだと思います」となんとか説明しました。綿の構造図
さあ、何が違うのでしょうか?

右の図はコットンの繊維の構造を示しています。
コットンの繊維の直径は25ミクロン程度の極細繊維です。人の髪の毛が
約80ミクロンですから、
その細さが判ります。

構造は、第1次細胞膜部分と第2次細胞膜部分、そしてルーメンと呼ばれる中空部分から成っています。
第2次細胞膜部分は、ほとんど
植物繊維本体のセルロースです。
そして第1次細胞膜部分はペクチン
やタンパク質、ロウ分で出来ています。

さて、通常の綿製品は、漂白や染色が行われていますが、この工程で、第1次細胞膜の成分
であるペクチンやロウ分は染色ムラなどの商品価値をなくす「邪魔な存在」です。
そこで、高温に熱せられた苛性ソーダの液槽に浸けて取り除きます。
その後、綿繊維の色素の黄色みを過酸化水素などのアルカリ剤で脱色して白くします。
そこから本番の染色加工ということになります。
これだけ化学的にダメージを与えれば、繊維としての本来の柔らかさはなくなります。

これに対して、生成りのオーガニックコットンは、天然石鹸で洗う又は酵素を使って汚れの他
ペクチンやロウ分を精練しますが、強アルカリの薬品で除去するような訳にはゆきません。
相当部分がそのまま残ります。
ペクチン、タンパク質、ロウ分が付いたままの製品が生成りのオーガニックコットン製品ということになります。

さて、ペクチンとはなんでしょうか?化学的には「複合多糖類」と呼ばれています。
みかんの皮をむくとオレンジ色の果肉が薄い袋に包まれていますが、この袋がペクチンです。
このようにペクチンは丈夫で柔軟性に富んでいます。お菓子のゼリーやジャムのとろみもみんなペクチンで増粘効果、ゲル化剤として食品では使われています。
実はペクチンは、人の身体にとっては、重要な役割をしています。
例えば、血糖値上昇の抑制、高脂血症の予防、高血圧の緩和、腸内の乳酸菌を増やし有害物質を排せつして腸内環境を改善します。いいことづくめです。

ペクチンは、コットンの繊維を丈夫にしてゲル化による優しい表面効果をもたらしていたのです。

視覚障害のある方の感覚は流石に鋭く、一般の綿製品の柔軟剤による柔らかい肌触りと
オーガニックコットンのペクチンの肌触りの違いをはっきりと認識されたのです。

天然自然の力は、高々70年程度の人工合成の薬品の効力が及ぶはずのないことです。

一般の綿製品は、天然であることのマイナスを化学加工技術で処理することで品質を目指しますが、NOCのオーガニックコットン製品は、全く逆で、コットンの生来の性質をできるだけそのまま
生かすことで品質を目指しています。
同じ「品質」と云う言葉ですが、方向が真逆であることを知って頂きたいと思います。

平成26年8月13日             日本オーガニックコットン流通機構
宮嵜道男

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